カザルスの最後の言葉は祖国愛は自然なものである。しかし、なぜ国境を越えてはならないのか。世界は一家族である。われわれ一人ひとりは兄弟のために尽くす義務がある。われわれは一本の木につながる葉である。人類という木に。
そして 今 1枚の葉が落ちようとしている。母の重篤の状態は昨夜まで続いた。2人の医師と酸素吸入は続いた。まんじりともせずに母のそばに付き添い、一夜は明けた。どの時点で親族に連絡すべきか、一瞬の戸惑いもあった。
人には2人の親があり、2人の親には4人の親がいる。人類の起源はなに原人であったのかは問題ではない。その原人にも生みの親はいる。さらに遡れば、爬虫類や両生類もいる。人類の起源は象などの起源と同じネズミの種だという学説もある。
しかし、地球が生まれ、アミノ酸から珪藻類や藻類が誕生したときから、生命は受け継がれている。いったん絶滅してしまえばいかなる手だてを持っても 又 生命を作り出すことはできない。
母の心拍数は自動車のエンジン フルスルットのように打ち続け、呼吸は口笛のように音をたてた。しかし、何とか食事をとり終えると、自らを諫めるように、『良し、ご飯が食べられた これで明日までは生きられる』と言いそのまま崩れ落ちた。
その形相は、夜叉のように 又 菩薩のように映った。
今日 母は生きている。その事実が確かに私を支えている。
今夜も張り詰めた一夜を過ごすが、私は不眠不休の全力で母を支える。 かつて 私が母に生かされたときのように。