雪が死んだ。 平成17年1月23日 日曜 朝 8時45分 雪が死んだ。 その朝 いつものように家を一回りし こたつの裏側で一声啼いた。
妻が声をかけた 雪 雪 刹那 言いようのない不安が妻の胸に去来した。 駆け寄ると 雪は静寂の永遠の闇の中に横たわっていた。 揺り起こし 抱きしめ 慟哭の雄叫びの如く、雪の名を呼び続けた。
雪が死んだ。それはまぎれもない真実であった。 不条理の如く、体温は静かに、そして確実に冷えていった。
あなたの 愛らしき瞳よ 全てを許容し包括する 深遠なる青き瞳 なんと しなやかで コケティシュ な 肢体 真実と虚構を見定める たゆたいとした ひげ 甘えるように すねるように 甘噛みをした 真珠の牙 だだっ子のように 腕白に 激しく 時には許しをこうように立てられた爪 爪 全ての時空間を圧倒した 花びらのような 柔らかき両耳
その全てが、絶望という刃物で断ち切られた。 嗚呼 愛しき雪
嗚咽と無念の涙を流し、雪の死に水を取っていると、優しくふわりふわりと雪が舞ってきた。 私が別れの挨拶に来たのだねと 雪 に声をかけると、妻は又狂人のように泣いた。 私も夕なずむ窓辺に舞う雪を目で追いながら涙した。 私は、雪と妻との二人だけの時間を作った。私は一人2階でスサーナのLPをかけた。
雪が降ってきた ほんの少しだけれど 私の胸の中に 積もりそうな 雪だった 灰色の雲が 私に教えてくれた 明るい日差しが すぐそこに 来ていると。
翌朝 雪は妻の膝の上に抱かれ 私は車を走らせた はじめて 雪と暮らした思いでのマンションへ
へべれけになり 四つんばいになり 階段を上ると いつも玄関で待っていてくれた 雪
見えるかい 雪 雪が一番好きだった 花飾りの出窓 二人で洗濯物を干し 二人で風呂上がりに夕涼みをしたベランダ
私はどれほどの敬愛を持ってあなたに感謝しただろうか 今この場に立って 悔恨の情と無念の思いは絶望に変わり 荼毘に付す私の胸中を知って どうぞあなたの慈愛で許して下さい。
雪は 荼毘にふされた。
私は 火葬場の人に気づかれないように ひとかけらの雪の骨を食べた。
永遠の友 雪 を 永遠の友 雪 と確実ならしめるために。
雪が死んだ。 平成17年1月23日 日曜 朝 8時45分 享年20歳。
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