白木屋呉服店の過去の一点

この度、fc2で同名のブログを開始したため、こちらは「過去の一点」と改名いたしました。過去数年分の作品についてはここでしかご覧になれません。このブログは今後も継続していく予定ですので、fc2と併用してご利用いただきたいと思っています。ホームページ本体の「ご意見ご感想」もご利用ください。
 
2012/03/15 14:26:01|西陣と綴
織悦の袋帯「芝垣秋草尽」

第千九百七十回目の作品として織悦の袋帯を紹介します。
タイトルは「芝垣秋草尽」です。

白地に琳派の秋草としておなじみのモチーフを並べた意匠です。モチーフ自体が魅力的とはいうものの、そのモチーフをほぼ等間隔に並べただけですし、色もきれいですが、織悦のレギュラーメンバーとも言うべき色たちで、特にひねりを加えたものでもありません。

それでも帯として眺めてみると、なぜか都会的で洗練されているように見えます。不思議ですよね、織悦さまの御威光でしょうか。それとも、本当にセンスが良いのでしょうか。

写真のいちばん上は帯の幅を写真の幅として撮ったもの、写真2番目と3番目は近接、4番目は裏側です。

改めて見てみれば、「琳派の秋草を等間隔に並べただけ」というのが間違いなんですね。実際に琳派の画家たちによって描かれた秋草、夏草など草花の屏風を見てみれば、それぞれももっと写生的な花の付き方をしていますし、草花どうしはもっと自然に重なっています。

こういう草花を見ると、呉服屋さんとしては、すぐに琳派の写しと思ってしまいますが、じつは織物にする時点で図案としてかなり整理されているようです。草の生え方も花の数や位置も、理想的なバランスになるように再構成されているんですね。

ついでにいえば色もただきれいな色を並べただけでなく、良く計算され、整理されて使われています。同じ青色が萩の葉になったり撫子の花になったり、菊の花弁や花芯になったりしているのですが、全く不自然には感じません。織物としての制約もあるのでしょうが、人間の目がちょうど疲れない程度の色数でもあるんでしょうね。

こうしてみると、都会的な洗練も計算の結果としてつくられたものなんだなあと感じます。

4番目の写真は、本金の平金糸で織られた芝垣部分の裏地の耳です。私は西陣の織物の価値を判断しなくてはいけないときは、手掛かりとして、とりあえず引き箔をチェックします。







2012/03/14 15:22:00|伝統工芸作家
青戸柚美江の出雲織の着尺「雪おこしピカッと落ちて霰かな」

青戸柚美江の出雲織の着尺「雪おこしピカッと落ちて霰かな」。

日本海側では真冬の到来を告げる激しい雷があるらしく、それを島根や鳥取では「雪おこし」というそうだ。

写真のいちばん上は反物の幅を写真の幅として撮ったもの、写真2番目は絣部分の近接、写真3番目は近接、4番目はもっと近接。







2012/03/13 17:36:00|花也
花也の付下げ「菱割槇木」

花也の付下げ「菱割槇木」。

写真のいちばん上は前姿(マエミ+オクミ)、写真2番目は近接。







千切屋治兵衛の色留袖「野崎村」

千切屋治兵衛の色留袖「野崎村」。制作は藤岡。

テーマは歌舞伎や浄瑠璃の演目である「野崎村」。「野崎村」は「お染久松」が心中に至るまでの物語である「新版歌祭文 (しんぱんうたざいもん)」の前段部分で、前段部分以外は今は演じられることはないということだ。私はこの演目が全体の一部分にすぎず、他に細かい設定があって、後段で2人とも本当に死んでしまうとは知らなかった。

大坂の油屋の丁稚である久松は、店のお金を横領したと疑われて、養父母のいる実家に帰されてくる。その実家には養父母が結婚してほしいと願っている実の娘、お光がいて、この機会に店を辞めて結婚させようということになるのだが、そこへ店のお嬢さまである、お染が久松を追ってきてしまう。

彼女はすでに妊娠しているらしい。前段のテーマは心中物というよりは久松とお光とお染の三角関係という世話物で、全体のヒロインであるお染よりも、泣いてあきらめるお光の方が観客の共感を得るのではないか。

ラストのシーンは、結局、お染を選んだ久松が油屋に帰るわけだが、世間体を気にしてか一緒には帰らず、お染は迎えに来た母親と船で、久松は駕籠で帰る。季節は早春で土手には梅が咲き、お光は見送りながら泣き崩れる。

写真のいちばん上は全体、写真2番目と写真3番目は近接、写真4番目は家紋を入れる部分。








2012/03/11 13:51:00|藤井絞・竹田庄九郎
藤井絞の訪問着「蔦」

第千九百六十六回目の作品として藤井絞の訪問着「蔦」を紹介します。

絞りを使った訪問着の大作です。絞りという技法を使って具象表現をした作品ですから「辻が花」とも言えますが、室町時代の辻が花にはない型疋田なども加えておりますし、全体の意匠も違いますから、現代的な創作作品というべきかと思います。「辻が花系」ぐらいには言っても良いかと思いますが。

写真のいちばん上は全体、写真2番目は前姿(マエミ+オクミ)、写真3番目と4番目は近接です。

実際に床に広げてみれば、大作の風格のある作品だと実感します。地色が黄緑ということで、それだけでも個性的な雰囲気ですが、下染めされている生なり色と重なって、黄緑に凄味があります。絞りの大作ということで、技法にも興味がありますが、それ以前に、色だけで見る人を圧倒しますね。

さて技法ですが、私はまず、このような複雑で全体が絡む柄あわせなのに、縫い目の柄がすべてあっていることに感心します。100%意図的に描く友禅ならともかく、ハプニング要素も含む絞りで全ての縫い目の柄を合わせているのですから。

蔦の葉の形を正確に絞っているのは、藤井絞の職人であれば驚くことはなにもありません。しかし、蔦の葉どうしが接近しているところで、その間になる部分は、細くて長くて複雑な形を持つ、回廊のような地帯になるわけですが、その部分にムラなく染料が入って、きれいに染められているのは、かなり難度の高い技ではないでしょうか。